インタビュー

【ドローン未来通信vol.28】KDDI株式会社 事業創造本部 ビジネス開発部様

ドローン未来通信では、様々な方に今後のドローンの可能性についてインタビューを行う企画です。28回目はKDDI株式会社の事業創造本部 ビジネス開発部の齊藤様と博野様にお話をお伺いしました。
 
ドローン黎明期である2016年頃からスマートドローン構想を掲げ、モバイル通信ネットワークを活用した安心安全なドローン専用基盤「スマートドローンプラットフォーム」の開発を進められているKDDI社。今回は最前線で活躍されているお二人に「スマートドローンプラットホーム」では何ができるのか?そしてこれまで多くの実証実験を経験された中で、これからのドローン市場はどう変化するか?などをインタビューさせていただきました。
 
インタビューを通じ、通信事業としての責任感、使命感を強く感じました。
ドローンビジネスに携わっている方、これからドローンビジネスに参入したい方は是非ご覧ください!
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KDDI株式会社 
事業創造本部 ビジネス開発部
部長 齊藤 俊一様(写真左)
ドローン事業推進グループ グループリーダー 博野 雅文様(写真右)

URL:https://smartdrone.kddi.com
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ハミングバード:
最初にKDDIさんがドローン事業に取り組まれた背景について教えていただけますか。
また、事業創造本部ビジネス開発部ではどんな業務に携わっていらっしゃるのかを教えていただけますか。

KDDI博野様:
2016年頃、私は当時商品部門にいたのですが、スマートフォン市場が飽和してきたなかで新しい商品を色々模索していました。そこで目を付けたのがドローンです。
 
ドローンにモバイル通信(携帯電話等の移動通信システム)を搭載することで、現地に人がいなくても遠隔でドローンを制御することが可能になると考えました。またモバイル通信を活用すれば遠隔地にいてもドローンの映像をリアルタイムで管理できるのではないかと考えました。
しかし、当時モバイル通信は陸上移動局ということから、上空で利用することは法律で禁止されていました。それが、2016年の7月に試験的に制度化され、個別の申請を行うことにより上空でのモバイル通信が可能になりました。
 
▷参考:無人航空機における携帯電話等の端末の利用
https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/uav/
 
上空でのモバイル通信が可能になったことで、KDDIとして商品化を進めるべく、物流や警備、点検分野など、様々な実証実験に取り組みました。
 
実証を通じて、遠隔での監視や制御を実現するためには、基盤、プラットフォームを作らないといけないことが分かり、経済産業省配下の研究機関であるNEDO(国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)からの支援を得て、「スマートドローンプラットホーム(運航管理システム)」の開発を進めることになりました。
 
▷NEDO(国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)DRESSプロジェクト
https://nedo-dress.jp/
 
2020年には先行実証という形で、当社が構築した運航管理システムを用いて兵庫県と三重県と宮城県の3地域で同時飛行の実証を行いました。2021年は更に公募で採択された10地域を加え、合計13地域で同時実証を行う予定です。その中で、ドローンの飛行状況を一つのシステムで管理し、必要な空域の制御を行っていくことを進めていきます。
 
KDDI齊藤様:
飛行機と考え方は一緒ですね。同じ時間にドローンがあちこちで飛行している姿が日本地図上にモニタリングされます。
 
KDDI博野様:
有人機(飛行機)の場合は航空管制官という国土交通省の国家公務員の方が担当されています。今後たくさんのドローンが同時に飛行することが予想されるなかで、有人機同様の運航管理システムをどう実現していくかが課題になってきます。当社はそのための航空管制のシステムを構築してきました。
 
同時に飛行するドローンの数が多くなればなるほど、通信のトランザクションや通信の遅延時間など、ネットワークの設計を考慮したシステム構築を行う必要がありますが、このあたりはまだ国内でもしっかりとした議論ができていないと考えています。その為、大規模な実証を通じて、システム設計の課題の洗い出しを含めて行っていくのが、NEDOから受託したプロジェクトにおける役割の1つと考えています。
ハミングバード:
他の通信キャリアさんに比べてドローンに取り組まれたのは早い印象がありますが、いかがでしょうか?

KDDI博野様:
そうですね。モバイル通信を活用した航空管制システムの可能性を模索する今回の取り組みは、他社さんよりかなり早いと思います。
 
KDDI齊藤様:
2016年には既に国内ドローンメーカーである「プロドローン」さんに出資させて頂き、資本業務提携関係をもつことで、モバイル通信のモジュールを搭載したドローンを実際に作って飛ばすことを開始していました。
さらに経済産業省に評価いただき、幾つかの国のプロジェクトにも参加しています。そこでは毎年大きな成果公表も行ってまいりました。
 
※プロドローン(https://www.prodrone.com/jp/
日本発の産業用ドローン専門メーカー。高安全、高機能、高安定の各種産業用ドローンを製造販売している。
 
ハミングバード:
実証で同時飛行する際のドローンは、複数メーカーで行うのでしょうか?
 
KDDI博野様:
はい、様々なメーカーさんの機体を使用できるような形でプラットフォームの設計をしています。前回の実証ではプロドローンさんだけなく、ACSLさんやDJIさんの機体も同時飛行の検証を行いました。
 
ハミングバード:
海外ではすでに同様の運航管理システムの取り組みは始まっているのでしょうか?
 
KDDI博野様:
そうですね、一部始めている国もあります。取り組みとしてはNASAが先行していて、日本もNASAのアーキテクチャーを参考に、国内におけるアーキテクチャーを議論している状況です。
ハミングバード:
運航管理システムでは他にどんなことができるかを教えていただけますか。

KDDI博野様:
産業用ドローンで必要な機能については、プラットフォームの中に取り込んでいきたいと思っています。遠隔での制御は当然必要になってきますし、ドローンで撮影した映像を遠隔でモニタリングすることも必要です。それは一拠点だけでなく、多拠点で同時に状況を確認できるようにする必要があります。
 
あとはドローンを飛ばす際に、飛行位置を正確に把握する必要があるので、位置測位の技術を高めていく必要があります。当社は、「ジェノバ」さんと業務提携し、高精度な測位技術を機体に載せて飛行できるようにしています。
 
また、ドローンは天候により落下等の事故に繋がるリスクがあるので、絶えず天候変化を把握する必要があります。特に遠隔かつ上空の気象を高精細で把握することが必要となりますので、「ウェザーニューズ」さんと提携し、高精細気象情報を提供いただいて活用しています。
自社だけですべてをまかなえるわけではないので、持ってないところはパートナー様から力をお借りしながらプラットフォームを構築しています。
 
※KDDIとジェノバ、高精度測位情報配信サービスの提供に向けた業務提携契約を締結
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/04/24/4399.html
 
※ウェザーニューズとKDDI、天候を予測して作業現場の安全を管理するIoTクラウドサービスを開始
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2018/07/06/3249.html
 
KDDI齊藤様:
なお、運航管理には、一個一個の機体の飛行状態を管理する部分と、それがつなぎ合わさった状態を全体として管制して見ていくという、二つの顔があります。当社では両方とも取り組んでいます。
実証ベースで2021年には13地域で同時飛行を行いますが、2022年に制度整備が完了するLeve14(有人地帯における目視外飛行)が実用化されていくと、100地域、200地域で同時飛行ということになります。そういう時代に向けて、誰が何をどう役割を果たしていけば良いのかは、まだまだ制度、整備を含めてやっていかないといけないところです。当社はそのど真ん中で頑張っています(笑)。
 
一方で、事業としての収益化はまだまだ途上です。ですがドローンの社会実装を進めるというところでは誰かがやらなければなりませんし、通信会社としての責務からそこは携わっていかなければならないと感じている部分です。
ハミングバード:
素晴らしい取り組みですね。今後、ネットワーク使用料はいただきたいですよね。
 
KDDI齊藤様:
そうですね、通信会社としてはネットワーク使用料を頂戴したいですね(笑)。
でも、今はそこを構えすぎるのではなく、ドローンを使うことによって今までやっていた仕事がどう変わるのか、というメリットをまずは知ってもらうことが重要だと感じています。
 
ただ、日本の産業は凄く作りこまれているので、従来のやり方を変えることはなかなか難しいですね。安全面や業務工程、ルール、成果物など、極めて緻密に業務フローが作りこまれています。そこに、ドローンという新しい技術を導入した際にどう変わるのか、頭では理解していても手間を考えるとなかなか踏み込めないところがあるのだと思います。
 
KDDI博野様:
日本の場合は、既存産業が高度に発達しすぎているので、いかにドローンを受け入れていくかが今後の課題だと思います。
 
実は競合はドローン事業者だけじゃない気がしますね。既存のビジネス、既存の手段に対して、それをドローンで代替できるようなサービス、技術を作り上げることができるかが重要です。
 
KDDI齊藤様:
ドローンは物流をはじめ、いろいろな分野で活用が期待されていますが、業界によって導入の時間軸がそれぞれ異なると感じています。例えば点検や測量では現時点ですでにドローンが実運用されていますが、物流での利用となるともう少し先になる可能性があります。
 
また、企業によっても時間軸は異なります。積極的な企業さんもいれば、保守的な企業さんも存在します。企業さんごとにルールも異なり、立場もあるので、一個一個お話を聞きながら、丁寧にわれわれの取り組みを現場でご活用いただけるよう働きかけをしているのが今の状況ですね。
ハミングバード:
既存産業が高品質で展開されている日本ならではの課題ですね。
御社が既存産業を理解し、課題を把握された上で、ドローンメーカーさんに対してこういう仕様にしてほしい等の要望を出すこともあるのでしょうか?
 
KDDI博野様:
はい、行っています。われわれとしては産業ごとに特化したドローンが必要であると考えており、既存ビジネスの課題を把握した上でメーカーさんに開発要望を出しています。プロドローンさんは出資させていただいている関係もあるので、産業ごとに特化したドローンをお願いしています。
 
事例として、2021年の6月にプロドローンさんと「水空合体ドローン」を発表しました。水中ドローンはすでにある技術ですが、水中ドローンを点検場所に持っていくのに従来はボート等を使用していました。現場からは運搬にコストがかかるという話があり、そこで水空合体ドローンを開発しました。水空合体ドローンであれば、着水ポイントまでドローンで飛行し、そこから水中ドローンを離して点検を行えるため、今の課題は解決できるだろうと考えています。
 
※世界初、「水空合体ドローン」を開発
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2021/06/10/5181.html
ハミングバード:
ありがとうございます。
これまで配送をはじめ、監視、点検、測量、農業など、多くの実証実験を経験されていますが、そこから感じた点を教えて頂けますか。
 
KDDI博野様:
物流に関しては様々な実証をやってきました。課題としては色々とありますが、なかでもコスト対効果というところではまだ既存の物流を代替できるところまではできていないと感じています。ただ、モバイル通信の可能性という面では、物流は非常に親和性が高いので、今後も引き続き取り組みを進めていきます。
 
現時点でビジネスとして可能性が高い領域としては、「点検」ですね。
風力発電の点検や鉄塔の点検、送電線の点検などの高所作業があります。今は人が登って点検を行っていますが、非常に危険な作業かつ、工数が掛かっています。その人災リスクとコストをドローンで下げることが可能です。このような箇所はすでに作業がドローンに置き換わりつつあります。
 
それ以外の分野についてもドローンの付加価値をさらに広げ、適用範囲を広げていく必要がありますね。
 
KDDI齊藤様:
コスト、ビジネスの視点でいうと、やはり点検現場における課題解決に、ドローンは短期的には色々な役目を果たせると思います。
一方で、コストという観点を抜いて言えば、災害現場での活躍はドローンだからこそできる価値ではあります。
例えば、災害発生後に道路が寸断され、薬を今すぐに向こうに届けたい場合に、ヘリではなくドローンを活用するというのは価値がある利用シーンだと思います。
 
KDDI博野様:
ドローンでできることの期待感と現実のギャップが生まれていることも現在の課題と感じています。市場成長性とドローンならではの価値はどちらも見ていく必要がありますね。
ハミングバード:
ありがとうございます。先ほどの時間軸の話とも通じますね。
先ほど、2021年も13地域で実証を実施されるとのことでしたが、「レベル4(有人地帯での目視外飛行)」の実現に向けて取り組んでいらっしゃることはありますか?
 
KDDI博野様:
はい、取り組みは行っています。東京都さんの案件で、「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」に参画しています。日本航空さん、東日本旅客鉄道さん、ウェザーニューズさん、Terra Droneさんと一緒に取り組んでいます。
 
日本航空さんとは医薬品配送、JR東日本さんとはフードデリバリーというところで、都市部でのドローンでの物流を実現する際には何が必要なのかを、サービス実証を含めて、課題の洗い出しから行っています。
 
※「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」に参画
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/08/31/4644.html
 
ハミングバード:
都内での実証計画とは実際にドローンを都内で飛行させるのでしょうか。またKDDIさんは本プロジェクトにおいてはどのような役割を担当されるのでしょうか?
 
KDDI博野様:
はい、今年度に都内での飛行を予定しています。
当社は本プロジェクトでは実証実験の主幹企業として入っておりまして、運航管理指針の提供やネットワーク提供という部分を担っています。
 
実証以外にも「レベル4」制度化が進められている中で、いろいろなワーキングが立ちあがっています。これまで運航管理システムの開発を進めてきた経緯もあり、ワーキングにわれわれの知見を提供し、制度化に反映していくところを進めていただいています。
ハミングバード:
ありがとうございます。最後の質問ですが、当社は操縦士を育成するスクールを展開しています。ドローン操縦士に対して期待していることをお聞かせ頂けますか。
 
KDDI齊藤様:
まずドローン操縦士にはすごく期待しています。ドローンの活用が広がっていくなかで、操縦士の必要性はすごく感じています。
ただし、ドローンを飛ばす技術だけではなく、測量現場で言えば、測量に関する知見もあることが望ましいですね。点検についても同様に、点検業務ならでは勘所、見所がありますので、精通している人が求められています。ドローン操縦技術に専門知識を有した人材はもっと必要になってくると思います。
 
逆に質問したいのですが、ドローンスクールに法人の受講生は増えていますか?
 
ハミングバード:
はい、法人の受講生は徐々に増えていますね。当スクールの場合は受講生全体の5割は法人です。なかでもスクールを開校した2016年頃は工務店さんなどの中小企業さんがメインでしたが、最近は大手企業さんの社員の方も多く通っていただいています。
 
ただ、大手企業さんの場合は、スクール卒業後に現場で操縦される方はまだ少なく、例えば点検現場の場合、現場ディレクションは卒業生の方が担当されますが、オペレーターは当社にご依頼いただくことが多いですね。
 
それでも当社としてはドローンのことを理解している方が一人いらっしゃるだけで、できること、できないことを理解してもらえるので非常に助かりますね。
ドローンで出来ることを理解されないまま相談されると、無茶振りされることもあるので。
 
KDDI齊藤様:
そうですよね。ドローンを取り入れる企業様にもご提案できる教育機会の提供が必要だと感じています。今後は、現場を知っている人がドローンの知識や操縦技術を習得していくことが求められていくかと思います。
 
KDDI博野様:
あとドローンスクールさんには、ぜひ国産メーカーの機体を操縦できる方を増やしていただきたいですね。
 
ハミングバード:
そうですね。現在はどうしても市場に多く流通している機体を中心に操縦訓練を実施していますが、プロドローンさんの機体もそうですし、この秋にNEDOから発売される機体も楽しみにしています。価格はまだ分かりませんが、セキュリティの関係で海外メーカーに比べて安心感があるので、国内で普及する可能性はありますよね。
 
※セキュリティ対策ドローン公開 10月販売へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ1373L0T10C21A4000000/
 
KDDI齊藤様:
そうですね。国内メーカーさんにも頑張っていただき、われわれもプラットフォームを構築し、スクールでは操縦士をしっかり育成いただく形で、それぞれが協力し合うことで良いスパイラルに繋がると考えています。
 
ハミングバード:
ありがとうございます。当スクールでも引き続き操縦士の育成を頑張っていきます。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

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